月組エリザベートを観て

長い文章を書くのは苦手なのですが、月組エリザベートにあまりの衝撃を受けたのでこの感動をまとまった形で残しておきたいと思いブログまで開設してしまいました。たぶん今後更新することはないであろう...

千秋楽ライビュに向かう電車の中で書いています。

どういう手順で書くのが読みやすいかわからないので、ひとまず人物ごとに感想を。

 

①愛希シシィ。

強くて、でもちゃんと弱いところもあって、愛らしくて、優しくて、気高い。すごく人間的魅力のあるシシィ。「ヒステリックなところがない」と言っている人がいて、なるほどなあと思いました。

「わたしを返して!」

少女のときから強気さを滲ませる役作りもよく見ますが、ちゃぴシシィはもうただびっくりして、お願いしてるんですよね。

そして歳の取り方が上手い。結婚式の「はい」って声がいかにも子供子供しているのが良い...舞踏会のときも不吉なほど無邪気に、操り人形みたいに踊っていて、周りが「扱いやすそう」って言うのがわかる。フランツと一夜を過ごしたあたりからちょっとずつ大人っぽくなってくる匙加減が絶妙~!

最後通告の「あなたの話はお母様が聞いてくれる」って台詞にすら嫌味なところが全然ない。「許して...」って言ってしまう優しさですよ。この人の中にはまだフランツへの愛情が残っていて、でも子供のために自分を奮い立たせて戦っているんだなと思いました。(カフェブレイクで、やっぱりフランツへの愛情が残っている。ってちゃぴが言っていたのが嬉しかった!)

「嫌よ負けないわ」ってトートをはねつけるところも、彼に腹を立ててるんじゃなくて、一瞬でも「死」に心を委ねかけた自分が許せないんだなというのもすごく印象的で、愛希さんらしい役作りだなと思いました

「でも私の人生は私のもの」

ちっとも傲慢なところがなくて、ただただ晴れやか。当たり前のことを言っているだけなのだなと気づかされます。鏡の間って結構フランツを寄せ付けない気の強さが前面に出たお芝居をよく見るけど、ちゃぴシシィは慈愛すら湛えていて本当にすごい...ただ人並み以上に自由を愛している、それだけ。


②珠城トート。

今までトートのことは「美形の死神」として認識していたんですけど、今回はいつのまにか忍び寄る「死」という概念として理解できたと思っています。めちゃくちゃ白い地色も恵まれた体格も、キャラクター性を高めるうえで一役買っているなと。

すっと出てきてすっと去っていく匙加減のおかげで、「エリザベート」の物語として作品全体を観ることができました。

一番好きなのは最後通告の場面!机に腰掛けるシシィとの体格差がたまらないし、肩を抱かれて安心したような表情のシシィが可愛いのです!

シシィが死を拒絶しつつも惹かれながら、ずっと揺れている感じなのが良かったとは友人の弁。歴代シシィ、ずっと手酷くトートをはねつけてますものね。

 

③美弥フランツ。

一番革新的な役作りだったのではないかと思っています。いつまでも精神的な未熟さが覗く「ママの息子」。どんどん精神的に成熟していくシシィに置いてかれていると感じました。包容力を売りにしてる男役さんじゃないからこそ、シシィとの齟齬がかなり腑に落ちました。

ハンガリー独立運動の場面も、明らかにシシィが一枚上手で、政治的なこともあまりよくわかってなさそう。まあ「オーストリー皇帝は何も決める必要はありません」だもんね!いやそこニコニコするとこと違う!!

トートに怯えて抱きついてきたシシィに「皆が見ている。皇后らしくするんだ」と言ったときのおままごと感がすごい。美弥さんのルドルフは良い意味で誠実さがないというか、その時々で都合の良い依存先を探しているというか「扉を開けてくれ 君が愛しい 側にいて」「安らかに眠りたいせめて今宵だけは」とか性欲丸出しじゃないですか?(スミレコード...)

持ち味ってすごいですね...そりゃシシィも拒絶するわと思いました(小並感)

「母上はもういない 帰っておいで」とかむちゃくちゃサイコパスですよね エ...死んだんやで??なんか今回はシシィを取り巻く環境の異常性に目が行くことがすごく多かったです。

娘をゾフィーに取り上げられるところとか、「経験豊富だ任せよう」じゃないんじゃ...おそらく産後間もないガウン姿で出てくるくらいシシィは必死なんだけど、あたかもシシィのほうが精神不安定みたいな扱いをされて看護師に両腕掴まれて連れていかれるところとか、それを黙ってみてるフランツとか、印象的でした。

(ここで看護師に両腕を掴まれるシシィと、医者に両腕を掴まれて連れていかれるヴィンディッシュってもしかして対になっているのかなとふと思いました...)(宮廷の中での異常者としてのシシィの表象)


④暁ルドルフ。

美弥フランツに似てると思いました。ふわふわ周りに流されている感じ。ママに依存してる感じ。

「ママは僕の鏡だから」って歌うルドルフ、シシィの手に頬を寄せるルドルフが、実はフランツに鏡写しだと感じて鳥肌が立ちました...あの場面でシシィがルドルフを拒絶してしまう理由が直感的に初めて分かった気がしました。(イケコの演出意図とは違うみたいだけどね)(追記:らんちゃんがブログでルドルフにフランツに通じるものを感じたと書いていて嬉しかった!)

 

⑤月城ルキーニ。

存在感あるけど出すぎることもなく、ストーリーテラーとしての居方が上手いなあと思いました。最後まで結末を知っているうえで、物語の現在に戻って割り込んできている感じがした!

台詞が聞き取りやすい!顔が綺麗!

ちゃぴシシィとのバートイシュルのやりとりが毎度可愛かったです。あなた最後刺すのよね...?笑

最後の笑い声とか「ないものはないんだ!」と民衆を怒鳴りつける迫力が凄い。れいこちゃんこういう芝居もできるんだなと...民衆の怒りを増幅させ、トート閣下の「あるところにはあるさ」に奉仕するために、わざと残り少ないミルク缶を担いで呼び込むしてるんだなと思いました!


⑥輝月マックス。

い、色男~~!若い!トランクの鏡でずっと髪型だったり髭だったりいじっているのがずるいですね!結婚式での燕尾がたまらないです。

ゾフィーとの掛け合い、自由を愛している彼だからこそ、シシィが宮廷で窒息してしまうであろうことを自分の実感として腹を立ててるのが伝わってきて良かった!

二人が違う歌詞歌ってるのに両方ともあんなにはっきり聞こえたの初めてでした!さすがだあ。

 

⑦海野ヴィンディッシュ。

大好きです...。

「連れて行け!」って強引に肩を捕まれて、暴れるでもなく子供のように泣きだすお芝居がすごくリアルでした。触覚過敏でパニックを起こすのって確か自閉症とかの症状として顕著なんですよね。

シシィに頭を抱かれてるときも、シシィの鼓動を聞きながらシシィのの心の内まで聞き取っているような不思議に透徹した瞳のお芝居がすごく好きでした。

扇をもらったヴィンディッシュの反応として、子供のように夢中になって目の前にいるシシィのことなど忘れてしまうお芝居も残酷で好きだけど、静かにじいっと扇に見入っているうみちゃんがとても良かったです。

たぶん最初の「どうして跪かないの?」っていう高慢な仕草や台詞は、世間が思うエリザベートそのものなんだろうなと思いました。それでヴィンディッシュが最後に扇を開いて静かにゆっくりと歩き去っていくのは、実際のシシィに触れて、彼女の中でエリザベートのイメージが変化したからなんだろうと思いました。

シシィの「変われるなら変わってもいいのよ」ってすごく嫌な台詞だと思うんですけど、ちゃぴのシシィにはヴィンディッシュへの愛情が溢れていてすごく温かった!すごく色々考えさせられる大好きな場面でした。うみちゃんありがとう。

 

その他気になったお芝居など!
・叶羽ヘレネ

「助けてくれたの」と語るシシィに優しく頷いてるところでいつも涙腺が緩んでました...今までシシィとヘレネは相容れないイメージがあったけど、彼女は本当に優しいお姉ちゃんなんだろうなと...

・晴音リヒテンシュタイン

ド美女。歌うま。めちゃくちゃ目を惹かれました。95期は本当人材の宝庫だな...

・カフェの海野さん

ド美女。「♪驚異のウエスト50センチ!」っていや貴女もね感。退屈そうに爪みがいたりコーヒー飲んだり、男友達に肩揉んでもらったりしてるのを観察するのが楽しみでした!

・千海ラウシャー

「お見合いに...行かれたのですよ」の間の取り方と言い方が巧い。宅配を取るくだりも、あのベビーフェイスとのギャップがたまらなく面白かったです。

・蓮エルマー

トートと握手したときに不審な顔で手を見下ろしてたのが芸が細かいなと思いました!手が冷たいのね...B日程も観劇したんですけどそのとき暁エルマーは無反応で、ツェップスのほうが手を見つめてたのが面白かった!

 

雑駁に思ったままを書き連ねてきましたが、1幕終わって頭に浮かんだのは「エリザベートはいた。愛希れいかである」*1との思いでした。

いや、エリザベート、確かに居たんですけどね。ちゃぴらしいお役を書いてもらってオリジナル作品で退団したなら、って思ったこともあったけれど、今までに観たことのない、最高にちゃぴらしい、誰もが愛さずにはいられないシシィだったと思います。卒業はとっても寂しいですが、内心帝劇でまたちゃぴのシシィに逢えたらなと思っています。

愛希れいかに万歳!

*1:エドガーはいた。明日海りおである」汎用性の高い小池修一郎の発言